- 開催趣旨
新型コロナウイルス感染症の始まりから約3 年、私たちは不安を抱えた長い日々が終わることを待ち望みながら、今日、明日、またその次の日と一歩ずつたゆみなく歩みを進めてきました。
以前と変わらないような日々を得た人もいれば、まだその渦中にある人と、一様に復調したとは言えないなか、新たな争いや災害は起こり、平穏な日々を得ることの難しさに直面しています。
しかしこれまでを振り返ってみたとき、誰もが小さな凸凹を乗り越えた経験をもち、大きな出来事に遭遇したとしても、それぞれの傷を内包しながら時を重ね進んできた希望をみることができます。
以前と同じに戻ることができないような経験をし、異なる時間に身を置くことになった後、それでも日々を続けるために取り得る態度にはどういったものがあるでしょうか。
社会や自己のあり方の問い直し、他者との関わり、時間の経過など、地道な手段は私たちの推進力になり得ます。
本展ではそうした力に目を向け、希望を宿した作品を通して、弱った心身を受容しながら生きる術を考える契機となることを試みます。
ポイント
光を指し示すもの
私たちはどのように自己を回復し、進んでいくことができるか。現在を見つめ考察することから、生きている喜びまで、猪熊弦一郎、大岩オスカール、兼子裕代、小金沢健人、畠山直哉、モナ・ハトゥム、米田知子の7人の作家による作品を通して、光ある可能性が提示されます。
多彩なメディア
それぞれ光を宿した作品は、絵画、写真、映像、インスタレーションといった多様なメディアで表現されます。
各々が選び取った手段によって表現されることそのものが、どんなことであれ自身の選択によって道を開いていけることを示します。
新作の出品
「生きることは、動きの中でドローイングし続けること」*と記した小金沢健人は、数年来取り組んでいるドローイングと映像の作品を発展させた新作を発表します。兼子裕代もアメリカ、オークランドにある、元受刑者が社会復帰をするための受け入れを行なっている植物栽培園で自身も働きながら、同園の様子やスタッフを捉えた新作を発表。「希望や幸福が生まれる瞬間をこれからも記録していきたい。」と語ります。
*『DOMANI・明日2022-23 百年まえから、百年あとへ』文化庁、2022 年
- 展示構成と出品作家プロフィール
1.世界を考える
自分たちの今いる現在を見渡します。人が集まって成り立っている社会は何かの衝撃で簡単に崩れてしまう脆いものですが、光ある世界を創造していくこともできます。
大岩オスカール(おおいわおすかーる)
1965年サンパウロ(ブラジル)生まれ。1989年サンパウロ大学建築学部を卒業。1991年サンパウロから東京に移り、2002年からはニューヨーク(アメリカ)を拠点に活動。社会の情勢と個人の生活が重ね合わさった地点から自身に見える、欲求する世界を描く。出品作はアメリカ同時多発テロ事件が起こった翌年の2002年、ニューヨークに到着した大岩が雲の間に虹を見て明るい未来を感じたことから制作された。
モナ・ハトゥム
1952年ベイルート(レバノン)生まれ。ロンドン(イギリス)を拠点に活動。1975年、ロンドン滞在中にレバノン内戦が勃発し、帰国できなくなった後、ロンドンのバイアム・ショー美術学校とスレイド美術学校で美術を学ぶ。ジェンダーの問題や、紛争、移住をテーマとして、パフォーマンス、ビデオ、写真、彫刻、インスタレーション、紙作品を制作している。出品作は、透明なガラスのビー玉で作られた世界地図で、床に固定されていないため、鑑賞者の動きによる振動で地図の一部がずれたり、破壊されそうになるなど、脆弱で不安定な作りになっている。同時に、床面を危険で通行不可能なものにし、不安定な地理を暗示している。
米田知子(よねだともこ)
1965年兵庫県生まれ。ロンドン(イギリス)在住。1989年イリノイ大学シカゴ校芸術学部写真学科卒業、1991年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。日本を含むアジア、ヨーロッパなど各地の紛争や戦争、震災といった歴史的な事象が起こった土地を訪れ、徹底的なリサーチを元に現在の姿を撮影。その風景がもつ記憶と歴史を呼び起こす。出品される「積雲」シリーズ(2011~2012年撮影)は、広島平和記念公園、靖国神社、福島県飯舘村といった場所を重ねて日本の近現代史を問い、今を考え、これからの社会を創造する起点とする。
2.個人として
私たちはいつも他者とともにあります。異なる者同士が交差する地点で起こる様々な出来事を引き受け、その接点を更新しながら人生は進んでいきます。
小金沢健人(こがねざわたけひと)
1974年東京都生まれ、武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業後1999年に渡独、2017年までベルリン(ドイツ)で活動する。映像やドローイングに加えて光や煙、音、日用品なども用いて空間を変容させる。本展では、ずれる2枚の紙の重なりの両方にまたがって描くドローイングと映像の作品を出品。偶然現れる表層と下層の見えない部分を入れ替え・ずらし・つなぎながら、即興的に描き続けることで作品は完成される。
3.自然の姿から
人間の意志の及ばない自然の力。時に大きな被害を与えますが、一方で思いもよらない圧倒的な生の姿に目を見開かされます。
畠山直哉(はたけやまなおや)
1958年岩手県生まれ。筑波大学芸術専門学群にて大辻清司に師事、 1984年同大学院芸術研究科修士課程終了。東京を拠点に活動。石灰石鉱山とセメント工場、鉱山の発破の瞬間、都市の地下水路など、都市・自然・写真の関わりをテーマに写真作品を制作。本展出品の「津波の木」シリーズは、東日本大震災の大津波で半分の枝は枯れてしまったが、もう半分の枝に緑の葉を茂らせるオニグルミの木と出会ったことで制作を始める。傷ついた時間を抱えながらも、それでも続く生きることが迫ってくる。
4.新たな希望を
たとえ自身を喪失するようなことがあったとしても、何かをきっかけとして自己を取り戻し、新たな希望を得ることができます。
兼子裕代(かねこひろよ)
青森県生まれ。カリフォルニア州オークランド(アメリカ)を拠点に活動。明治学院大学文学部フランス文学科卒業後、会社員を経てロンドン(イギリス)で写真を学ぶ。2002年にアメリカに拠点を移す。2021年より北カリフォルニアのオークランドにある植物栽培園、プランティング・ジャスティスに参加し、スタッフと一緒に美術の創作活動を行っている。本展ではスタッフの姿や同園の活動、周囲の環境を被写体とし、自己の尊厳を回復していく希望の姿を捉えた作品を出品。
猪熊弦一郎(いのくまげんいちろう)
1902年香川県生まれ。東京美術学校(現東京藝術大学)中退。1955年、東京からニューヨーク(アメリカ)に拠点を移す。1975年より東京とハワイ(アメリカ)を拠点に活動、1993年没。本展には、妻を亡くした喪失から脱した後、集中的に描き始めた「顔」シリーズを出品。取り組んだ初期には妻の顔を求めて描いていた側面もありつつ、制作を続けることで「絵として美しいもの」を描こうとする猪熊本来の絵画への向き合い方へと移行した。
- 開催概要
展覧会名 | 回復する
主 催 | 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術振興財団
助 成 | 一般財団法人自治総合センター
会 場 | 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 3 階展示室C
会 期 | 2023 年12月23日(土)-2024 年3月10 日(日)
開館時間 | 10:00-18:00(入館は17:30まで)
休 館 日 | 月曜日(ただし2024 年1月1日、8日、2月12日は開館)
| 2023 年12月26日(火)-31 日(日)、2024 年1月4日(木)、9日(火)、2月13 日(火)
観 覧 料 | 一般:950円(760円)大学生:650円(520円)
高校生以下または18歳未満・丸亀市在住の65歳以上・
各種障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
*同時開催常設展「猪熊弦一郎展 好奇心と素直さ」観覧料を含む
*( )内は前売り及び20名以上の団体料金
同時開催
常設展「猪熊弦一郎展 好奇心と素直さ」
観覧料 :一般 300 円(240 円)、大学生 200 円(160 円)
※企画展の観覧料は別途
前売券情報
楽天チケット https://leisure.tstar.jp/event/rlikggm/
【販売場所(丸亀)】
あーとらんどギャラリー:0877-24-0927
オークラホテル丸亀 :0877-23-2222
おみやげ SHOP ミュー :0877-22-2400
- 関連プログラム
親子でMIMOCAの日
日 時:2024 年1月20日(土)、21 日(日) 10:00-18:00
高校生以下または18 歳未満の観覧者1 名につき、同伴者の方はどなたでも2 名まで観覧無料となります。
キュレーターズ・トーク
概 要:本展担当キュレーター(松村円)が展覧会をご案内します。
日 時:2024 年1月7 日(日)、2月4 日(日)、3月3日(日)各日14:00-
参加料:無料(別途、本展観覧券が必要です)
申込不要、当日1階受付前にお集まりください。