- 開催趣旨
猪熊弦一郎(1902-1993)は晩年、人の顔や動物、丸や四角、そして何とも呼びようのない抽象的な形など、多様な「形」を一枚のカンヴァスのなかに自在に描きました。異なる形が絶妙なバランスで配置された、明るく伸びやかなこの画風には、素直で前向きで、美をこよなく愛した猪熊の性質がそのままあらわれています。
しかし、作品に本来の自分を出し切ることは簡単ではなく、猪熊がこの表現に辿り着くには長い年月が必要でした。
本展では、東京美術学校入学から、帝展出品時代、新制作派協会設立、渡仏まで、猪熊の画業の礎とも言える、20代、30代の頃の創作活動を紐解きます。大正後期から昭和初期にかけて、年々戦時色が増す困難な時代にあっても、常に前を向き、未知なる自分の世界をひらくべく真摯に「美とはなにか」を問い続けた、若い画家の探究と気付きの軌跡をご覧ください。
- 出品作家プロフィール
猪熊弦一郎(いのくまげんいちろう)
1902年 香川県高松市生まれ。少年時代を香川県で過ごす。
1921年 旧制丸亀中学校(現 香川県立丸亀高等学校)を卒業、上京し本郷洋画研究所で学ぶ。
1922年 東京美術学校(現 東京藝術大学)西洋画科に進学、藤島武二教室で学ぶ。
1926年 帝国美術院第7 回美術展覧会に初入選する。以後、1934 年まで毎年出品し入特選を重ねる。
1927年 東京美術学校を中退。
1935年 新帝展に反対し不出品の盟を結んだ有志と第二部会を組織、第1回展に出品する。
1936年 同世代の仲間と新制作派協会(現 新制作協会)を結成、以後発表の舞台とする。
1938年 渡仏、パリにアトリエを構える(~1940)。滞仏中アンリ・マティスに学ぶ。
1950年 三越の包装紙「華ひらく」をデザインする。
1951年 国鉄上野駅(現 JR 東日本上野駅)の大壁画《自由》を制作。
1955年 渡米、ニューヨークにアトリエを構える。
1975年 ニューヨークのアトリエを閉じ、東京に戻る。冬はハワイで制作するようになる。
1989年 丸亀市へ作品1,000 点を寄贈。
1991年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館が開館。
1993年 逝去、90 歳。
トピックス
若きアーティストの奮闘
猪熊弦一郎は、当館が果たすべき役割の一つに、若いアーティストの育成を挙げていました。2022年に開始した公募展「MIMOCA EYE / ミモカアイ」は、この猪熊の考えに沿うものです。
第1回展の大賞受賞記念にあたる同時開催の「「第1回 MIMOCA EYE / ミモカアイ」大賞受賞記念 西條茜展 ダブル・タッチ」に呼応し、本展では猪熊自身が20代、30代の頃の画業に注目して、若い画家が独自の表現を探り奮闘するさまをご紹介します。
作品から時代が見える
今回、当館では初出品となる版画作品《射的》は、1936年にナチス政権下で行われたベルリンオリンピックの芸術競技に出品されたものです。
額の裏板には「Ⅺth OLYMPIAD BERLIN 1936 Art Competition and Exhibition」と記載されたラベルが貼られており、当時の記録書からも猪熊が版画部門に出品していたことが確認できます。本作は、その後廃止されたオリンピック芸術競技の痕跡を示す、歴史資料でもあります。
本展のポイント
藤島武二の指導 「デッサンが悪い」
東京美術学校で、猪熊は藤島武二(1867-1943)のクラスを選択しました。藤島は週に2度教室にあらわれ、どの学生にも「デッサンが悪い」とだけ言って立ち去ったそうです。
その言葉を猪熊は自分なりに解釈し、絵画とは、ものの形をただ写すのではなく、その本質や事象を描くことだと考えるようになりました。当時、日記のように描いていた自画像には、感情を絵にあらわそうとする試みがうかがえます。
新制作派協会設立
1930年代、日本の軍国主義化が進むにつれ、美術にもその影響が及びます。1935年、政府は美術界における挙国一致をめざし、突然、帝展(帝国美術院展覧会)の制度改革を敢行しました。
これを機に猪熊は官展と決別します。そして、より純粋に芸術を追究したいと、1936年、小磯良平(1903-1988)ら同世代の仲間とともに新制作派協会を立ち上げ、以後、同会を発表の舞台としました。
マティスの教え 「お前の絵はうますぎる」
1938年、猪熊は35歳でフランスに渡り、2年間パリで活動しました。滞仏中、巨匠アンリ・マティス(1869-1954)に自作を見てもらう機会を得ます。
そのときマティスから言われた「お前の絵はうますぎる」という言葉は、「自分の絵になっていない」という戒めとして猪熊に突き刺さりました。この経験を起点に、猪熊は生涯を通じて、画家として「本来の自分を描き切ること」に邁進するのです
- 開催概要
展覧会名 | 猪熊弦一郎展 画業の礎-美校入学から渡仏まで
主 催 | 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術振興財団
会 場 | 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 3 階展示室C
会 期 | 2025年1月26日(日)ー3月30日(日)
開館時間 | 10:00ー18:00(入館は17:30まで)
休 館 日 | 月曜日(ただし2月24日は開館)、2月25日(火)
観 覧 料 | 一般:950円(760円)大学生:650円(520円)
高校生以下または18歳未満・丸亀市在住の65歳以上・
各種障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
*同時開催企画展「「第1回MIMOCA EYE / ミモカアイ」大賞受賞記念
西條茜展 ダブル・タッチ」および常設展「猪熊弦一郎展 立体の遊び」観覧料を含む
*( )内は前売り及び20名以上の団体料金
同時開催
企画展「「第1回MIMOCA EYE / ミモカアイ」大賞受賞記念 西條茜展 ダブル・タッチ」
会 場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 2 階展示室B
常設展「猪熊弦一郎展 立体の遊び」
会 場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 2 階展示室A
前売券情報
- 関連プログラム
キュレーター・トーク
概 要:本展担当キュレーター(古野華奈子)が展示室で来館者に見どころをお話しします。
日 時:2025 年2月9日(日)、3月9日(日) 各日14:00 ー
参加料:無料(別途、本展観覧券が必要です)、申込不要
親子でMIMOCAの日
概 要:高校生または18歳未満の観覧者1名につき、同伴者2名まで観覧無料となります。
日 時:2025 年2月1日(土)、2日(日)10:00ー18:00(入館は17:30まで)
*その他のプログラムは決まり次第、当館WEBサイト等でお知らせいたします。
- 2025年度 展覧会情報
2025年度(上半期)開催予定の展覧会についてご案内いたします。
「猪熊弦一郎博覧会」
会 期:2025 年4月12日(土)ー7月6日(日)
「大竹伸朗展」
会 期:2025 年8月1日(金)ー11月24日(月・休)